東京高等裁判所 平成5年(行ケ)110号 判決
イギリス国
ウースター ダブリューアール 51 イーキュー、ペリー ウッド ウォーク、ウッドサイド(番地なし)
原告
カルナウドメタルボックス ピーエルシー
同代表者
ロバート アンソニー オーウェン
同訴訟代理人弁理士
鵜沼辰之
同
熊澤繁
同
吉岡宏嗣
同
石井博樹
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
高島章
同指定代理人
恒川勝正
同
中村友之
同
入交孝雄
同
井上元廣
同
吉野日出夫
主文
特許庁が平成2年審判第10104号事件について平成5年3月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と司旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1984年2月14日アメリカ合衆国出願に基づく優先権を主張して、名称を「罐の端部の強化成形方法及び装置」とする発明(以下、この発明の特許請求の範囲第9項に記載の発明を「本願発明」という。)について特許出願をした(昭和60年特許願第26123号)ところ、平成2年2月28日、拒絶査定を受けたので、同年6月22日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第10104号事件として審理した結果、平成5年3月16日、上記請求は成り立たない、とする審決をし、この審決書謄本を同年4月7日、原告に送達した。
2 本願発明の要旨
「円形中央部分(151)と、丸み部分方向に収束し、罐本体にフランジ付けしたときに内圧を受ける切頭円錐室を中央パネルの部分と丸み部分と共に形成する切頭円錐内壁(154)を前記中央パネル(151)に接続するパネル丸み部分(153)と、前記切頭円錐内壁(154)を切頭円錐外壁(156)とを接続する外側に開くカウンターシンク丸み部分(155)と、を有し、両切頭円錐外壁と内壁とがカウンターシンク丸み部分から放れる方向に相互に収束し、切頭円錐外壁が罐本体にかしめられるフランジ(158)に接続し、加工前の金属素材が中央パネル(151)の非成形部分の横断面の厚みで代表される呼稱厚みを有している、耐圧強化罐端において、少なくとも前記カウンターシンク丸み部分(155)の一部がその切頭円錐外壁(156)に接続する位置で前記中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも厚い横断面の厚みを有していることを特徴とする耐圧強化罐端部」
(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 昭和58年特許出願公告第46369号公報(以下「引用例」といい、引用例記載の発明を「引用発明」という。別紙図面2参照)には、次の記載が認められる。
〈1〉 本発明は、容器のための耐圧性端部壁の形成方法に関する(公報3欄37、38行)。
〈2〉 本発明の他の目的は、全体的に円形状に端部壁を最終的には曲率半径の小さい、深い補強溝を有した端部壁に形成し、この時金属の厚さをいささかも減少させることなく、おそらくは金属の厚さを幾分増加させることとなる形成方法を提供することである(公報5欄23行ないし28行)。
〈3〉 端部壁が上述した最終成形加工操作において、圧縮され、曲げ加工が行われると、金属の端部壁を薄くするような金属の絞り作用は生じない。実際的に、板金の測定厚さは環状溝78の底部において0.0005インチ(0.013mm)だけ増加することがある(公報9欄2行ないし7行)。
〈4〉 第2図に示した端部壁の中央壁部10は外周フランジ16の方へ盛上げられており、この盛上げられた中央壁部10の周囲には環状溝78が形成されている。環状溝78の外側は円錐台状壁部14と接し、内側は内壁80と接している。円錐台状壁部14は中央壁部10が外周フランジ16の方へ盛り上げられる前における傾斜とほぼ同じ傾斜を有している(公報9欄33行ないし40行及びFig.2)。
〈5〉 本発明に関して形成された板金端部壁は円筒状の缶本体に取り付けた場合には、その内圧に対してよりよく耐えることができる(公報11欄13行ないし15行)。
(3) 本願発明と引用発明を対比すると、
a 引用発明の「耐圧性端部壁」は、円筒状の缶本体に取り付けられ、耐圧性を有するものである(前記〈1〉、〈5〉参照)から、本願発明の「耐圧強化罐端部」に相当するものと認められる。
b 引用発明の「耐圧性端部壁」の形状と本願発明の「耐圧強化罐端部」のそれとを厚みを除いて比較すると、両者の形状を照らし合わせれば明らかなとおり同一であるから、本願発明の用語を用いて表現すると、両発明は、いずれも、
「円形中央部分と、丸み部分方向に収束し、罐本体にフランジ付けしたときに内圧を受ける切頭円錐室を中央パスルの部分に丸み部分と共に形成する切頭円錐内壁を前記中央パネルに接続するパネル丸み部分と、前記切頭円錐内壁を切頭円錐外壁とを接続する外側に開くカウンターシンク丸み部分と、を有し、両切頭円錐外壁と内壁とがカウンターシンク丸み部分から放れる方向に相互に収束し、切頭円錐外壁が罐本体にかしめられるフランジに接続し、加工前の金属素材が中央パネルの非成形部分の横断面の厚みで代表される呼稱厚みを有している、耐圧強化罐端」
である点で一致しているものと認められる。
c 請求人(原告)は、厚みの点について、審判請求理由補充書で、「本願の耐圧強化罐部は確かに引例2
(注、引用例と同じ、以下、同様)に『板金の測定厚さは環状溝78の底部において0.0005インチだけ増加することもある」と記載されていることは認めるが、・・・、時には増加することもありうるという希望的意味合いであり、本願発明の様に後述する効果を伴う様な厚みと期待することはできないから、その点について本願の耐圧強化罐端部と引例2に開示されたものとは本質的に異なるものである」と主張しているので、この点について検討する。
前記〈2〉、〈3〉から、引用発明に環状溝78の底部が厚くなっているものがあることは明らかであり、前記「環状溝78の底部」には本願発明でいう「カウンターシンク丸み部」が含まれるものであるから、引用発明が本願発明と同様「少なくともカウンターシンク丸み部」が含まれるものであるから、引用発明が本願発明と同様「少なくともカウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置で中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも厚い横断面の厚みを有していること」は明らかであるから、上記主張は採用できない。
前記a~cのことから、引用発明は本願発明と同一の形状及び厚みを有するものであり、また、本願発明の効果と引用発明のそれとの間に差異があるものとも認められない。
(4) したがって、本願発明は引用発明であるから、特許法29条1項3号により特許を受けることができない。
4 審決の取消事由
審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、a、bは認める。cのうち、請求人(原告)主張部分は認めるが、その余は争う。審決は、引用発明における環状溝78の底部の厚みが本願発明の切頭円錐外壁156に接続する位置に形成される厚みに一致するとしたが、この判断は誤りであって、この点において審決は一致点を誤認して相違点を看過したものであるから、違法であり、取消しを免れない。
本願発明は、耐圧強化罐端において、中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも横断面の厚みを厚くする部位を「カウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置」と特定したものである。罐の内部圧力が大きくなると、カウンターシンク丸み部分は切頭円錐外壁156と接続する領域を支点として罐外部方向に膨張しようとする曲げ力を受けてヒンジ動作をし、外側に膨張しようとする。そこで、上記のようなヒンジ動作を抑制するためには、前記の特定した部位の厚みを厚くする必要があるのであり、これにより罐端部の耐圧性を増すことが可能となるものであって、この点に上記の厚みの部位を特定した技術的意義が存するのである。
これに対し、引用例には、確かに、「板金の測定厚さ環状溝78の底部において0.0005インチ(0.013mm)だけ増加することがある」との記載があることは事実であるが、上記の厚みの増加部分は、本願発明のそれと異なることは以下に述べるとおりであるから、審決の一致点の認定は誤りである。
審決は、引用発明の「環状溝78の底部」に本願発明の「カウンターシンク丸み部」が含まれるし、引用発明においても「少なくともカウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置で中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも厚い横断面の厚みを有している」とするが、誤りである。すなわち、本願発明にいう「カウンターシンク丸み部分」とは、直状の切頭円錐内壁154と切頭円錐外壁156を接続する丸み部分の全体を指称するものである。これに対して、引用発明の「環状溝78」は、引用例の 環状溝78は、内側80と接し、外側は円錐台状壁部14と接している」(8欄11行ないし13行)との記載及びその第5図から判断すると、内壁80と円錐台状壁部14とそれらを接続する外側に開いた丸み部分(以下、この部分を「環状溝丸み部分」という。)とにより規定されものと認められる。ところで、引用発明の内壁80と円錐台状部14はそれぞれ本願発明の切頭円錐内壁154と切頭円錐外壁156に対応するものであるから、引用発明の「環状溝丸み部分」は本願発明の「カウンターシンク丸み部分」に対応することは明らかである。そして、「溝の底部」というときは、少なくとも溝の最も低い部分を指すのであるから、引用発明の「環状溝78の底部」とは、環状溝78の最も低い部分を指すものと解すべきである。そうすると、引用発明の「環状溝78の底部」つまり「環状溝丸み部分の底部」は、本願発明の「カウンターシンク丸み部分155の底部」に相当するのであるから、上記部分が本願発明の前記の切頭円錐外壁156と接続する位置と一致しないことは明らかというべきである。また、引用例の「環状溝78の底部において厚みが増加することもある」との記載から、環状溝の底部から外れた部分、すなわち、環状溝丸み部分の一部であって、環状溝78の最も低い部分から外れた部分である円錐台状壁部14と接続する位置で厚みが増加すると認定することは論理に飛躍があるといわざるを得ない。
厚み部分の位置が異なることは、本願発明と引用発明の目的の相違からも明らかである。すなわち、本願発明においては、前記のとおり特定された位置で横断面を厚くすることにより罐の耐圧性を強化することを目的とするものである。これに対し、引用発明は、引用例の「全体的に円形状の端部壁を最終的には曲率半径の小さい、深い補強溝を有した端部壁に形成し、この時金属の厚さをいささかも減少させることなく、おそらくは金属の厚さを幾分増加させることとなる形成方法を提供することにある」との記載(5欄23行ないし28行)からみて、引用発明は「端部壁を薄くするような金属の絞り作用を生ぜしめない」ことを目的とするものであって、本願発明の前記目的とは異なるものであり、この点からみても両発明における前記厚み部分の位置は一致するとはいえないものである。
そして、引用発明の特許出願の優先権主張の基礎となった出願である米国特許出願第848517号において、「実際的に、板金の測定厚さは環状溝78の底において0.0005インチだけ増加することがある」(甲第6号証10頁15行ないし17行)との記載からみても、引用例の「環状溝78の底部」が「環状溝78の底」と同義であることは明らかである。
以上のことは、引用発明の成形方法からみても明らかである。すなわち、一般に、板材に板面方向の圧縮力を加えると、厚みが増加するよりも反りかえる方が先に起きる。したがって、円錐台状壁部14の厚みが増加するような圧縮力が作用するとすれば、それよりも先に円錐台状壁部14が外側に脹らみ、圧縮力が吸収されてしまうからである。そして、引用発明においては、円錐台状壁部14が外側へ膨らむのを拘束する壁面が設けられていないこと、及び、円錐台状壁部14に作用する圧縮力が本願発明の方法よりも小さいこと等において、本願発明の成形方法と異なり、その結果、罐端部の厚みが増加する位置及びその増加する程度が異なってくるものである。
したがって、両発明が「カウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置」において非成形部分の横断面の厚みよりも厚い点において一致するとした審決の認定は誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当である。
原告は、引用例の「環状溝78の底部」とは、環状溝78の最も低い部分を指すと主張するが、誤りである。すなわち、一般に、下部に丸みを有するものの場合、「底部」とは、曲面の最も低い点のみを指すのではなく、側壁を除く側壁とはみなせない底と認識されるような部分全体を指す意味であるのが普通である。そして、上記環状溝78の下部の曲率半径を有する部分は丸みを有しているから、この丸み部分が「底部」であることは明らかである。したがって、環状溝78の底部が側面とみなせる内壁80と円錐台状壁部14を除いた、底と認識される丸み部分を指していることは明らかであるから、本願発明の「カウンターシンク丸み部」が引用発明の「環状溝78の底部」に含まれるとした審決の認定に誤りはない。そして、本願発明の切頭円錐外壁156が引用発明の円錐台状壁部14に相当するから、本願発明の「カウンターシンク丸み部分(155)の一部がその切頭円錐外壁(156)に接続する位置」は、引用発明の「環状溝78の底部の一部がその円錐台状壁部(156)に接続する位置」と同じであるところ、引用発明では、圧縮され、曲げ加工が行われることにより環状溝78の底部の厚みは増加する(9欄2行ないし7行)から、結局、引用発明は「環状溝78の底部の一部がその円錐台状壁部156に接続する位置」でも厚くなることは明らかである。
原告は、本願発明と引用発明における成形方法の違いを指摘し、厚みの生ずる位置が相違すると主張する。しかし、壁部の外側を拘束している本願発明の方法の方が、そうでない引用発明の方法よりもより大きな圧縮応力を加えることができるとしても、材料がどのように変形するかは、その材料の性質にも依存しているので、引用発明の壁部の外側を拘束しないという加工形態のみから厚みの増加が起こらないと断定することは妥当ではない。また、引用例の第6図では、円錐台状壁部14の上から4分の3程度の部分まで外側に壁面が設けられており、上記接続する位置の近傍まで、外側へ膨らむことは拘束されているので、ある程度の圧縮力は加わっており、その結果、引用例には「実際的に、板金の測定厚さは環状溝78の底部において0.0005インチ(0.013mm)だけ増加することもある」ことが示されているから、審決の認定判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1ないし3は当事者間に争いがなく、本願発明と引用発明が中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも厚い横断面の厚みを生ずる位置(すなわち、この位置を本願発明でいうと、「カウンターシンク丸み部分(155)の一部がその切頭円錐外壁(156)に接続する位置」)を除くその余の構成において一致することは当事者間に争いがない。
2 本願発明の概要
いずれも成立に争いのない甲第2号証(当初明細書)及び同第3号証(平成2年7月23日付け手続補正書)によれば、本願発明の概要は以下のとおりであると認められる。
本願発明は、罐詰の内圧に高度に耐えることのできる強化された罐端部に関するものである。従来のこの種の罐端部においては、中央パネルに隣接して丸み部分を強化用溝状部分又はリング状の溝に成形することにより罐端部の耐圧性を高めるようにしているが、その成形時の引抜き工程において、金属板が薄くなり、耐圧性が低下するという問題点を有していた(当初明細書6頁末行から8頁10行)。そこで、本願発明は上記の問題点の解決を1つの課題として(9頁11行ないし18行)、要旨記載の構成を採択したものであり、これにより切頭円錐外壁と罐端部の強化カウンターシンク丸み部分との接続位置で厚みを厚くすることにより、金属板が薄くなるという欠点を解消して、耐圧性を向上するとの作用効果を奏したものである。
3 取消事由について
原告は、引用発明が本願発明と同様「少なくともカウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置で中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも厚い横断面の厚みを有していること」とした審決の認定は誤りであると主張するので、以下、この点について検討する。
(1) 引用発明の概要
成立に争いのない甲第4号証によれば、引用発明の概要は以下のとおりであると認めることができる。すなわち、引用発明は、容器のための耐圧性端部壁の形成万法、詳しくは、円形状の端部壁の底部凹所を郭定するほぼ平坦な中央壁部の一部分を盛り上げながらその周囲に補強溝を形成する方法に関するものである(3欄37行ないし42行)。この種の従来技術においては、罐端は、中央壁部に対する環状溝の深さを増大させ、かつ、環状溝の曲率半径を小さく維持する方法により耐圧性を増加させていたところ、環状溝は絞り加工によって形成されるため、環状溝を深くし、かつ、曲率半径を小さくすることよって耐圧性が増加する反面、逆に、絞り加工により金属が薄くなり耐圧性が減少するという問題点を有していた。そこで、引用発明は、上記の問題点の解決、すなわち、最終の仕上げ加工において端部壁の厚さを減少させないで耐圧性端部壁を形成することを課題としたものである(3欄43行ないし4欄41行)。そして、引用例には、その目的に関し「本発明の他の目的は、全体的に円形状の端部壁を最終的には曲率半径の小さい、深い補強溝を有した端部壁に形成し、この時金属の厚さをいささかも減少させることなく、おそらくは金属の厚さを幾分増加させることとなる形成方法を提供することである。」(5欄23行ないし28行)との記載、環状溝の形成に関し、「上記成形加工において環状溝78を形成するのにその部分を何ら外部より拘束する必要はない。その理由は、端部壁を第4図及び第5図に示すように断面形状のみで見るよりも、その全体の形状即ちそれが円板状をしていることを考えると理解し易い。即ち端部壁の円錐台状壁部14は一端縁で中央壁部10に接続された円筒形状をしている。従つて上記成形加工操作において頂部ダイ68を降下させると、中央壁部10の下面を支持する底部ダイ60の抵抗により円筒形状の円錐台状壁部14にはその軸線方向に圧縮力が付与される。この時円錐台状壁部14が外方に膨出変形する唯一の場合は、円錐台状壁部14の円筒形状部分の金属が伸張する場合である。しかしながら変形に対して最も抵抗が小さな部分は、曲げにより環状溝78が形成される円錐台状壁部14の底部と中央壁部10の外周部であるので、このような金属の伸張は生じない。即ち環状溝78の形成は円錐台状壁部14が外方に膨出変形した場合に見られるような金属の伸張ではなく、金属の曲げに基づいてなされ、金属のこの曲げはその伸張よりも小さな力で行うことができ、従つて円錐台状壁部14の外側を何ら拘束しなくても環状溝78を形成することができる。端部壁が上述した最終成形加工操作において、圧縮され、曲げ加工が行われると、金属の端部壁を薄くするような金属の絞り作用は生じない。実際的に、板金の測定厚さは環状溝の底部において0.0005インチ(0.013mm)だけ増加することもある。」(8欄22行ないし9欄7行)との記載があり、さらに引用発明の作用効果に関して、「本発明に関して形成された板金端部壁は円筒状の缶本体に取付けた場合には、その内圧に対してよりよく耐えることができる。従つて、本発明の方法によつて形成された端部壁の厚さを減らすことができるか、あるいは、低い引張り強度を有した金属であつても圧力保持能力を失することなしに用いることができ、これによつて端部壁のコストを軽減することができる。」(11欄13行ないし20行)との記載があることが認められる。
引用例の以上の記載によれば、引用発明は絞り加工により環状溝を構成する金属が薄くなり耐圧性が減少するという問題点を解消したに止まらず、環状溝78の底部において0.0005インチ厚みを増した結果、これを罐本体に取り付けたときは、内圧に対してより良く耐えることができるとの作用効果を奏するものであると認めることができる。
(2) ところで、本願発明においては、「中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも厚い横断面の厚みを有している」部分が、「少なくともカウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置」と特定されているから、引用発明の上記厚みが本願発明と同一部位に生ずるか否かについて、以下、検討する。
〈1〉 まず、本願発明において上記の厚みの生ずるプロセス及び厚みの発生位置について検討する。
前掲甲第2号証には、「特に素材の中央部分と協働するための第1力発生手段又は第1突当手段とが相互に間隔を開けて設けた一対の肩部を有し、加工硬化領域と丸み部分の延伸した中央領域を形成する。」(12頁15行ないし18行)との、また、実施例に関して、「突出リング25は又外側の円形周面27を有し、面26、27は幾分が屈曲した丸み部分Rを成形する間素材Bを拘束せずに引張る手段40により接続されていて(第7図)、この丸み部分Rは、屈曲した壁部分Rtにより接続された一対の肩部Rb、Rcにより形成されている。引張り手段40は一対の肩部41、42を有し、この肩部41、42間には外方に開口するリング状溝43が設けられている。肩部41、42の半径は約7mmと約15mmとであり、リング状の溝43の半径は約3mmである。突出リングの軸方向端面26から肩部42の半径に対する軸方向の間隔は約4.5mmであり、突出型25の軸心から肩部の半径中心の間隔は約24mmである(第7図参照)。」(15頁末行ないし16頁13行)との、さらに動作について、「引抜きパンチ80はフランジ160(第12図参照)を最終形状に成形し、丸み部分Rb、Rc間の中央丸み部分Rtを延伸することにより角状丸み部分R(第7図参照)を成形する。Rt部分を延伸することは、罐端部150のリング状壁部分152の可撓性を増加し(第12図)、他方カウンターシンクの丸み部分Rr(第9図参照)を強化成形すると組合せて丸み部分Rbを加工硬化すると、この部分の厚みを増加させる。」(25頁2行ないし10行)、「罐端150のフランジ160は引抜きパンチ80の面136~138とリフトリング60の面65の間に把持され、連続的に上昇運動すると共に角状の丸み部分Rを形成しつつ素材Bの中央パネルCPの平面から連続的に変形される(第8図参照)。第7図と第8図を比較すると、第7図の丸み部分Rcは第7図に示された位置から連続的に反転され、第9図に示された位置に達し、これと同時に丸み部分Rtは連続的且つ拘束なしにリング状の室130に変形されて強化用カウンターシンクの丸み部分(第9図のRt又は第12図の155)が完全に成形される。しかしながら、前述の様に第8、9図に示した位置間をリフトリング60と引抜きパンチ80とが運動している間、丸み部分Rの初めに引張られた部分Rtは加工硬化部分Rbに抗して変形しやすい。加工硬化部分Rbは比較的小さな曲率半径を有し、外郭線L6、L7間に強化部分を形成する。」(25頁末行ないし26頁下から3行)、「強化用カウンターシンクの丸み部分155は境界線L5とL6間に形成され、この間の線C4はカウンターシンク155の丸み部分を示し、線C5はカウンターシンク155の最低点を示している。境界線L7は線L6の半径方向内方に示されている。線l6、l7はそれぞれ線L6、L7を点P6、P7に接線したものであり、同様線,l8、l9はそれぞれ線C4、C5を点P8、P9に接続したものである。点P6とP7との間の厚みがゲージ厚みより充分厚く、このことは線L6、L7と線L6を半径方向に僅かに越えた範囲の材料を圧縮力等で厚くされたものである。・・・境界線L6、L7間のカウンターシンクの丸み部分の一部分Rbは、第7図の丸み部分Rbに対応し、この部分は成形開始時に僅かに加工硬化されるが、このような硬化は、拘束しないで成形された丸み部分Rを第9図に示した丸み部分Rrにするのみならず、線L6、L7間で金属の集合させる作用も有している。」(29頁下から2行ないし31頁1行)との各記載が認められる。
以上の記載によれば、本願発明において前記の接続部に厚みを生ずるプロセスは、引抜きパンチ80が下降しながらフランジを形成する際、突出リング25の肩部41と42によりRb及びRc部分に加工硬化部分を生じ、ついで、フランジ部及び切頭円錐外壁部分を拘束しながらリフトリング60が上昇するのに伴い、この引抜きパンチ80による拘束と前記加工硬化とが相まってリフトリング60による圧縮力が前記の接続部に集中される結果、「少なくともカウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置」(FIG.12において外郭線L6、L7とL6を半径方向に僅かに越えた範囲)に厚みを生ずるものと理解することが可能である。
〈2〉 そこで、次に、引用発明における厚みの発生プロセス及び厚みの発生位置について検討する。
引用例には、厚みの生ずる位置については、前記認定のとおり、「環状溝78の底部」とある以上に格別言及した記載はない。
そこで、引用発明における環状溝78の形成過程について検討すると、前掲甲第4号証によれば、引用例には、上記の形成過程に関し、「頂部ダイ68を静止している底部ダイ60の方へ移動させ続けると端部壁は下方に押されて圧縮されることになる。さらに、頂部ダイ68と端部壁とを第5図に示した位置にまで降下させると、外周フランジ16と中央壁部10との間の距離は、中央壁部10を円錐台状壁部14の底部における位置より盛上げることにより減少され、これによつて円錐台状壁部14の底部における金属を屈曲させ、盛上げられた中央壁部10の周囲に補強溝即ち環状溝78が形成される。」(8欄2行ないし11行)との、また、「上記成形加工において環状溝78を形成するのにその部分を何ら外部より拘束する必要はない。」(8欄22、23行)との各記載が認められる。
以上によれば、引用発明における環状溝78の形成過程は、頂部ダイ68によってフランジ部を拘束しながら、このダイ68を中央壁部10を静止している底部ダイ60の方向に圧縮して形成するものであり、この過程において前記の厚みが底部に生ずるものと考えられる。
〈3〉 そこで、以上の両発明における厚み発生のプロセスを対比すると、引用発明の環状溝78の形成過程においては、加工硬化及び切頭円錐外壁(円錐台状壁部14)の外部からの拘束がない点において異なることは明らかなところである。
そして、本願発明において前記め接続部に厚みの生ずるプロセスが前記認定のとおり、同部分における加工硬化と外部からの拘束にあることからすると、かかるプロセスを生ぜしめる構成を欠く引用発明における環状溝78の底部の厚みが本願発明のそれと同一部位で生ずるものと推認することは困難といわざるを得ない。
〈4〉 もっとも、本願発明においてもFIG.16ないしFIG19に表示された部材225は肩部を欠くところ、引用発明のFIG.6、FIG.7に示すもののプロセスは上記のものと何ら異ならない以上、両者は共に同一部位に厚みを生ずるはずであり、この意味で両発明における厚みを生ずる部位に差異はないのではないかとの疑問が生ずるので、以下、この点についても念のため検討することとする。
まず、引用発明のFIG.6、FIG.7に示す場合についてみると、前掲甲第4号証によれば、引用例には、上記の各図とこの場合に使用する工具につき、「ばね付きリング88は頂面90を有し、これは外周フランジ16の一部分および円錐台状壁部14に沿つて、円形の端部壁の内面18とほぼ合致する。」(10欄8行ないし11行)との、また、そのプロセスにつき、「端部壁と頂部ダノ92に対向配置されたばね付きリング88とは下方向に押され、端部壁は静止している底部ダイ82によつて圧縮され、同時に底部ダイ82の頂部支持面84が中央壁部10の内面を支持する。さらに頂部ダイ92を降下させ続けると、・・・このことによつて円錐台状壁部14の底部における金属を屈曲させ、盛上げられた中央壁部10の周囲補強溝即ち環状溝78が形成される。」(10欄30行ないし42行)との各記載が認められ、以上の記載によれば、FIG.6、FIG.7に示された引用発明の実施例においては、円錐台状壁部の外部が拘束されて圧縮力が加えられる点において本願発明の場合と異ならないものということができる。
そこで、本願発明のFIG.16ないしFIG19に示された場合について検討する。前掲甲第2号証によれば、上記各図は、本願発明の実施例15に示す装置による場合のプロセスを示しているものであるところ、確かに、これらの各図でみる限り、第1引抜きパンチ225(これがFIG.1ないしFIG.11の突出リング25に相当することはこれら各図と前記各図を対比すれば明らかである。)には肩部が表されていないことは明らかである。そこで、進んで、この点を検討すると、前掲甲第2号証によれば、FIG.15に示された本願発明の実施例装置は、「リング25とリフトリング60に相対するパッド35と引抜きパンチ80の位置を逆転配置」した構成であるところ(32頁8行ないし11行)、「次の引抜きでパンチ225と第2パンチ235が第18図に示した位置方向、即ち下方に移動し、この位置で素材B”は第7図の素材Bに対応している。この様に形成した素材B、B”は第7図では下方に、第18図では上方と相互に逆方向に開いている。」(35頁2行ないし7行)、「プレスラムの戻し運動は、パンチ280を下工具212のパンチ235と協働し、下工具212のパンチ235は圧縮パネルより作用を受け、第18図に示した位置から第19図に示した位置に中央パネルCPを変位させる。この運動は第8、9図に関連して述べたのと同等の折曲げ作用により強化用カウンターシンクの丸み部分を形成する。この様にして成形された端部250は構造的及び機能的に前述の端部150(第11、12図)に対応している。」(35頁末行ないし36頁9行)との各記載が認められるが、他方、FIG.15に示された本願発明の実施例装置に関する記載部分を精査しても、パンチ225に肩部を設けない理由に言及した記載を見いだすことができない。
以上によれば、本願明細書のFIG.15に関する記載は、FIG.1の装置の構成を一部逆転した構成が可能であることを示した点に記述の重点があるのであり、強化用カウンターシンクの丸み部分の形成においては、構造的にもまた機能的にも何ら差異はないことを示しているものと理解することができるから、FIG.16ないしFIG19に示されたパンチ225に肩部が表示されていないことを殊更に意味あるものと理解するのは相当でなく、かえって、前記認定の各記載からみる限り、FIG.15の装置のパンチ225も肩部を備えているものと解するのが合理的というべきである。なお、前掲甲第3号証によれば、本願発明の特許請求の範囲第7項には、「引抜きパンチ(25、225)は相互に間隔を開けた同心の肩部を備え、該肩部が丸み部分の加工硬化縁領域と延伸中央領域とを成形することを特徴とする特許請求の範囲第6項に記載の耐圧罐端の成形装置。」とする発明が記載されている。
そうすると、引用発明のFIG.6、FIG.7に示されたものは、円錐台状壁部14(切頭円錐外壁)の外側を拘束する点において共通するとはいえても、加工硬化を生じない点において本願発明とは異なるといわざるを得ないというべきである。
〈5〉 引用例には「環状溝78の底部」が厚みを増加するとの記載があることは前記認定のとおりであるが、引用例を精査しても、上記の厚みが環状溝78の底部の全体に渡って生ずるものか、それとも特定の箇所に生ずるものであるかについて言及した記載はない。そして、本願発明のカウンターシンク丸み部分の形成過程と引用発明の環状溝78の形成過程を対比すると、厚みの発生に影響を及ぼす要因である加工硬化の有無において差異があることを考慮すると、引用例の前記記載から本願発明と同一部位において引用発明においても厚みを生ずるものと断定することは困難といわざるを得ず、本件全証拠を検討しても、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、両発明が「少なくとも前記カウンターシンク丸み部分の一部がその切頭円錐外壁に接続する位置で前記中央パネルの非成形部分の横断面の厚みよりも厚い横断面の厚みを有している」点において一致するとした審決の認定判断は、誤りであるといわざるを得ない。
(3) 以上の次第であるから、本願発明と引用発明を同一であるとした審決の認定判断は誤りであるから、取消事由は理由があり、審決は違法として取消しを免れない。
4 よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)
別紙図面1
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別紙図面2
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